chain reaction

多様性を導く自己

2016.06.07

「嫉妬の心は彼我より生ず。もし彼我を忘るればすなわち一如を見る。一如を見ればすなわち平等を得。平等を得ればすなわち嫉妬を離る。嫉妬を離るればすなわち一切衆生の善を随喜す。」 とは空海の言葉。

 

他者を自分と同じ、生き残る為に工夫を重ねてきた生物なのだと思うと、羨望は尊敬に変わる。自己と他者との差異を羨望無く受け入れられたとき、あらゆる多様性を肯定出来る。

他者を知るには、基準となる自己を知る必要がある。自己の原型を理解し、自身も多様な他者の一人であると自覚した時、初めて人は「自信を持つ」事が出来るのではないだろうか。

 

自信を持つきっかけは様々だが、ほんの小さなジュエリーを身に付けるだけでも装着者の心理に影響を与え得る。私はジュエリーのそのパワーに魅了される。

ジュエリーは、 防御や利便性など他の機能は一切無く、 多くの他者と向き合う社会の中で、 アイデンティティー(自己の同一性、独自性、帰属意識)を示すことを主として発展してきた。装飾性、素材の価値、制作に費やされた手間や技術の価値、モチーフの由来や制作者の有名性など、様々な社会的意味が付与されてきた。それを記号として装着する事で自己同一性を顕示する。または自己暗示を掛ける。

本来自己を表現する手段としてジュエリーを利用して来たが、いつしか自己を知ろうとする事をやめ、ジュエリーを他者の価値観の枠に自分を嵌め込むだけの道具にしてしまっていないか。現在の大量消費社会に溢れる一ファッションアイテムとしてのジュエリーを手にして、私はそう疑問に思った。ジュエリーを通して装着者本来の姿を見出す事も、また装着者自身がジュエリーに自己を見出す事も、もはや難しい。

 

私は、ジュエリーがこれまで利用して来た記号から離れ、 装着者が自身の身体や動作、感情の変化と向かい合い、自己に気付く事が出来るジュエリーを提供したいと思っている。

 

写真 Yosuke Demukai

Profile

小川直子
ベルリンを拠点にジュエリーアーティストとして活動。ジュリーコレクション「"drawing"」を発表する一方、アート表現としてのジュエリーも展開。写真は、日常の中で、光の反射や映り込みをジュエリーとしてハンティングするプロジェクト「Jewelry Hunting」 (http://www.jewelryhunting.com)から。
http://naokoogawa.com